第15回新進部会討論会報告

多品種少量生産への対応技術 〜インクリメンタル成形〜

第15回新進部会討論会を,平成14年9月17日(木)愛知県豊田市緑ヶ丘(株)大豊精機本社工場にて開催しました. (参加者24名.)近年、消費者の要求ニーズ多様化・個性化に伴い、多品種少量生産が塑性加工業界においても 常識となってきており、もともと大量生産向きであった塑性加工技術とは別に、低コスト・短納期・少量生産の 為の塑性加工技術が必要となってきています.これらの課題に対し、板材のプレス成形において 『インクリメンタル成形法』という一つの加工法があります. 局所的な塑性変形を連続的に材料 に加えながら成形するもので、メリットとしては汎用性のある工具を用いて成形を行う為、成形型が不要. 又、局所的な成形により加工荷重が小さいことから大規模なプレス設備が不要な点が挙げられます. 大豊精機(株)において、インクリメンタル成形の実演及び成形法についてご講演いただき、最後にダイレス成形 の今後の動向について総合討論を行いました.

1.当日の日程

13:30〜14:00 受付
14:00〜14:10 開会の挨拶
14:10〜14:20 会社概要説明
14:20〜15:20 実演・見学
15:20〜15:35 休憩
15:35〜16:15 講演 「インクリメンタル成形法について」
16:15〜16:30 総合討論
17:00〜19:00 懇親会

2.見学

引率者の説明を受けながらインクリメンタル成形の見学を行いました.約1時間半の見学では, 簡単な解説を頂き,また,個別に質疑応答にも対応していただきました.

3.講演 大豊精機(株) 永田 達也様

大豊精機(株)の永田 達也様に約40分のご講演をしていただいきました.実際にモーターショーに展示する 自動車パネルに対して加工実績があるサポーター方式による成形法についてパワーポイントやサンプル を用いてご紹介いただきました.

4.討論会

Q.サポーターの材質に金属ではなくポリウレタン樹脂を用いているが、サポーターの寿命は短くならないのか
A.サポーターの寿命については問題ない.サポーターは成形時の被加工材を加圧するものではないため 金属である必要はない.樹脂を用いることにより、金型の加工時間は亜鉛合金型材の約1/2であり金型製作費用 も低減できる.
Q.ブランクホルダーで、被加工材を抑えつけて成形することにより成形精度が向上しているが成形角度が 大きくなると肉厚は薄くなる傾向があるのではないか.
A.ブランクホルダーにて抑える方式は抑えない従来方式に対して肉厚が減少する傾向は認められるが、 抑えない従来方式での肉厚減少量と比較すると、その差は小さい為問題となる程ではない.
Q.自動車車体パネルのような複雑形状のものを成形するときはインクリメンタル工具とサポーターとの クリアランスの決定が難しいように思われるが、プログラムはどのように作成しているのか
A.プログラムはサポーターを製造したものと同じものを使用しており.それを上側に平行移動してクリアランス を決定している. よってクリアランスの決定は難しいものではない.
Q.インクリメンタル工具が成形中に焼きついたりすることはないのか
A.潤滑油を塗布し、最適条件にて成形すれば工具が焼きつくことはない.
Q.局所的に伸び率300%の箇所も成形でき、通常のプレス成形では成形不可能な加工が可能であると いうことであるが、チタン材の成形性についてはどうか.
A.チタン材は実際に成形したことはないのでコメントできないが、もしニーズがあれば検討してみたい.

5.所感

設計、開発に力を入れており製品の企画力が高い会社という印象を持ちました.自動化装置、環境装置、 インクリメンタル成形等今後のユーザーニーズを適正に把握して魅力ある製品を開発しており、 インクリメンタル成形意外にも我々も学ぶべき点が多かったと思います.今回講演のみでなく実演も 見学させていただきインクリメンタル成形を学ぶ上では非常に有益でありました.大豊精機では 溝つき工具を使用することにより、インクリメンタル成形時に微小ハンマリングが行われ精度が さらに向上しているという報告がありました.本来インクリメンタル成形は、人出による打出し 板金作業の自動化により誕生したといわれており、部品成形のみでなく矯正作業に使用する等の 可能性も秘めた成形法であると思いました.